2004年 12月 10日

年の瀬が迫ると

この時期になると聞きたくなる落語があります。
落語といっても、人情噺といわれるもので、
タイトルは「文七元結(ぶんしちもっとい)」。

  左官の長兵衛は腕のいい職人なのに仕事もせず酒浸りの毎日。
  大晦日が期限の借金を返す金も無く、家では女房との喧嘩が絶えない。
  その喧嘩を見かねた娘が家を飛び出し、行方不明になってしまった。

女房が泣きながら「いなくなっちまったんだよ!」と伝えた瞬間、
飲んだくれ長兵衛の酒が一気に醒め、娘の身を案じる父親になるのです。
どんな廃れた心にも、娘は娘。かわいいもの。
このお父さん、後でもわかりますが、すばらしく素敵な人情家なのです。

  娘のことでまた喧嘩を始めた夫婦の元に、遊女屋から使いが来ます。
  「お宅の娘さんが身売りに来てますよ、どうなさるんで。」
  長兵衛はあわてて娘の元に駆けつけます。
  そこで娘は泣きながら父親に訴えるのです。 
   
  「私が身を売ってこしらえたお金で借金は全部返せるから、
  そのかわりおとっつぁんは酒をやめて仕事をして、いつか迎えに来て」 


  人情の厚い遊女屋の女将の一考。
  「この子の身代50両、あたしが払おう。来年の大晦日まで待ってあげる。
  その間、お花や歌を教えて、女一通りのことができるようにするつもりさ。
  あんたその間娘のために一生懸命働くんだ。
  ただし期限に間に合わなかったら、この子を店に出すよ。客取らすよ。
  どんな辛い思いをするかも知れない、変な病気にかかるかもしれない。
  それでもいいね?わかったかい」


この女将さんの心意気。
しかし約束を守らないことに対しての厳しい条件。
長兵衛は女将さんと娘に真人間になることを誓うのです。
「お金は必ず返しに参ります」と約束して。

  長兵衛は泣きながら女将からお金を受け取ると、家路を急ぎます。
  その途中、長兵衛が見たのは川に身を投げようとする青年。
  聞けば商家の奉公人で、旦那から預かった50両を無くてしまったので
  死んでお詫びをしようという。
  無くした金は50両、長兵衛の懐にあるのも50両。
  思い悩んだ末、長兵衛はいきさつを説明し、50両を青年に渡そうとします。 
  青年はもちろん「そんな訳のあるお金は頂けません」と断ります。
  
  「てめぇは50両無ければ死ぬってんだろ!?
  オレやカカァは50両無くったって生きていけるんだ!
  娘だって遊女になるが別に死ぬわけじゃねぇ。
  だからこの金、てめぇにくれてやらぁ!!」

  
  長兵衛は金を投げつけて立ち去ってしまいます。

暖かい気持ちのこもった、喧嘩言葉です。
ちなみに今回紹介しているのは立川談志師匠の「文七」ですが、
他の落語家さんだと、ここまで「50両をやる理由」を言っていないのです。
なんとなく、この青年が不憫だから、みたいな。
でもそれじゃあ聞いてるほうが消化不良なわけで。
見ず知らずの人に大金を渡すなんて、普通に考えて、無い、ですから。
談志師匠のを聞いて初めて、このお父さんの考えが分かりました。

  家に帰った長兵衛、また女房と喧嘩が始まります。
  娘の身代50両を見ず知らずの男に渡すなんて!と。(そりゃそうだ)

  一方金を受け取った青年は、店に帰り、旦那に50両差し出します。
  「お前、この50両、どこから持ってきた」
  話を聞くと、青年・文七はお得意先で旦那から預かった50両を置き忘れ、
  その金はもう店に届いているという。あわてていきさつを話す文七。

  「こんな世の中に、そういう善い人もいるもんだねぇ・・・」
  
  感心した旦那は、文七の話から長兵衛の娘の行く先を捜し当て、
  身代を払って娘を請け出し、綺麗に着飾らせて長兵衛の長屋へ向かいます。

  「長兵衛さんの家ですかい?あぁ、あの突き当たりのサ、喧嘩してる家ですよ」
  そこに娘とたくさんの贈り物が届けられ、泣きじゃくる親子3人。
  後に娘は、父親が命を助けた文七と結婚し、
  文七は元結(髪を結うときに使う紙縒り)屋を営んで大変繁盛したという、
  文七元結の由来話。

心が温まります。
談志師匠の文七は何度聞いても心に良いものが残ります。
そして実際長兵衛さんが動いてるのを見たことなんて無いのに、
活き活きとそれが想像できるんですよ。フシギ。
私の想像の世界では長兵衛さん役はビートたけしなんですがw。
これ、あまりにも良い話なので、歌舞伎にもなってます。
が、それは見たことがありません、というか、あまり見たくないんですね。
あくまでもビートたけしにやってもらいたいんでw。
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by pocket-xiao | 2004-12-10 02:04 | いとし、しほらし、かはいらし


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