2006年 11月 30日

ひらがな、ことば。

劇作家の木下順二氏が先月末に亡くなられていたことが
今日になって公表されました。

氏の代表作に「夕鶴」という作品があります。
昔話の「鶴の恩返し」を基にした、とても美しいお芝居です。

私がこのお芝居に出会ったのは、高校の現文(現国)の授業中に読んだ、
現文の資料集でした。
「夕鶴」の一文が数行載っていて、
その数行がとても印象に残って、
すぐに図書館で木下順二全集を手に取りました。

  青年・与ひょうはある日、傷ついた鶴を一羽助けた。
  その後、「つう」と名乗る女性が与ひょうの家を訪れる。
  つうは「織っているところを覗かないように」という約束で
  美しい織物を織り上げ、与ひょうはそれを売って、二人は幸せに暮らしていた。
  やがてつうの織物に目をつけた与ひょうの仲間が、
  高値で買い上げるから織物を作ってほしい、と与ひょうに要求をする。
  与ひょうは儲け話に喜び、さっそくつうにそのことを話す。

  布を織るんだ、高く売れるぞ。たくさんお金がもらえるんだ。
  宝物だって、たくさん手に入る。
  そう興奮して話す与ひょうにつうは戸惑い、問い質す。
  
  「わからない、あんたの言っていることがまったくわからない。
  おかねってなぁに?
  たからってなぁに?
  あたしのほかに必要なものがあるの?
  あたしはあんたがいれば、ほかに何もいらないのに・・・」

  それでもつうは布を織り始め、与ひょうはそれを覗いてしまう。
  そこにいるのは、自分の羽を抜いて、
  弱っていきながら機織機の前で織り続ける、一羽の鶴だった。
  出来上がった布を置いて、つうは去っていく。
  布を抱きしめながら、与ひょうはひとり涙に暮れた。

国語の資料集に載っていたのが、かぎ括弧で囲んだ部分。
だいぶ年月が経ったので、記憶も曖昧になっているが、
8割方、表記も含めて合っていると思う。

つうのことばには、おかね、たから、漢字でもいいものを、ひらがなが多い。
(他も、全体的につうのことばにはひらがなが多い)
それがつうというキャラクターすべてなんだろうな、という気がした。
このフレーズが、とにかく強烈に心に響いた。
そしておそらく「夕鶴」全体で、最も強烈な一文なんだと思う。

後に2度見に行った坂東玉三郎と渡辺徹による「夕鶴」でも、
私はやっぱりこの一文が気になって仕方なかった。
玉三郎の人間離れした美しさと渡辺徹のあったかい与ひょうは
キャスティングとしてはこの上なく、とても素晴らしかったが、
残念ながら、台詞があまり心に残らなかった。
女形の口調では、限界があったのか、
原文に対する私の思いが強すぎたか。

氏が亡くなったことで、「夕鶴」は多くの人が演じるようになるのだろうか。
(今までは氏が認めた2人だけが、公につうを演じることを許されていた。
ひとりは山本安英(故人)、もうひとりが坂東玉三郎)
氏がひらがなに込めたつうのことばに、
誰かが命を吹き込んであげてほしい。
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by pocket-xiao | 2006-11-30 23:41 | 言の葉コトダマ


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