2012年 07月 23日
たまには芸のことについてじっくり書いてみようなんて思いまして。 たぶん、長文です。たぶん、とりとめないです。 既成観念が変わるくらいにガツンとした芸に出会うことがあります。 しょっちゅうはないです。ほんの、数年に一度程度です。 それを時系列に並べてみようと思います。 文中に突然出てくる番号は、便宜的に振ってみたもの。 私の芸のルーツの、本当の根っこは「落語」です。 中学生の時にTVで見た【①春風亭小朝の落語】が、全ての原点です。 演目は忘れました。「辰巳の辻占い」もしくは「動物園」? いや、もっとメジャーな話だったような気もするし。 大人が見るようなものには面白いものがあるんだなぁ、って思った。 で、そこからTVラジオの演芸番組を総ざらいし、記録するという、 とても中学生とは思えない生活が始まる。 小朝の落語は面白い。達者だと思う。理知的だし。色っぽいし。 だいぶ長いこと聞いていないけど、今はどんなになっているんだろう。 きっと相変わらず面白いんだろうけど、今の私の感性に添うのかどうか。 落語を聞くなかで、当然、【②古今亭志ん朝(故人)】に出会う。 鈍行で2時間かけて、落語を聞きに行ったことがある。 「船徳」という、家を追い出された貧弱な若旦那が船頭のまねごとをする噺。 高座にいる志ん朝の後ろにはきちんと江戸時代が見えた気がして、 あぁ、落語ってこういうものなのか、と思った。 今見ているこの人は江戸時代の人であり、背景は江戸なのだ、と。 それと当時、毎年8月の中席、浅草演芸ホールで「住吉踊り」という会が開かれていた。 志ん朝が音頭を取った、演芸と踊りの、お祭りみたいな会。 これを高校2年生の時に上京して見に行った。 非常に素晴らしいものだった。 「かっぽれ」という座敷踊りを10パターンぐらい、 いろんな芸人さんが踊るのだが、どれも趣向を凝らしていて面白い。 私がのちに日本舞踊を習うきっかけとなった一つがこれ。 だから志ん朝が早くに肝臓を病んで亡くなった時は、とても悲しかった。 もっとライブで見たかった。 背景に江戸を背負っていた唯一無二の芸人。 落語を聞いていると、節々に歌舞伎が出てくるので、 今度は見識を広めるためにと、歌舞伎を見るようになる。 最初は面白いとも何とも思わなかった。しいていえば、「よくわからない」。 ただ、ビジュアル的な美しさには興味を持った。 高校3年生だったと思う。教育テレビで【③歌舞伎舞踊「関扉」】を見た。 関所の番人が実は日本を征服しようという悪者で、 征服の印に切り倒そうとした桜の木の精霊と戦う、という、 言ってしまえばそんな内容の踊り。 松本白鷗(幸四郎のお父さん)と中村歌右衛門によるもの。 その演出に度肝を抜かれる。 歌舞伎舞踊の演出の目玉である衣装替えがあるのだけど、 その変わりっぷりがダイナミックで、鮮やかで、しかもきちんと意味がある。 踊り自体も迫力があるもので、今でも「関扉」は一番好きな舞踊。 だらだらと歌舞伎を見続け、大学1年生の夏、 7月歌舞伎座【④「義経千本桜 大物浦」】を見た。 市川猿之助(当時。今は猿翁)演じる平知盛の死に際が凄まじく、 これまで「歌舞伎は型の芸」だと思っていた私の脳天を激しく揺さぶった。 こんなに面白いものなのだと、歌舞伎を心底見直した。 ここから数年にわたり猿之助の歌舞伎を見続けることになる。 大学1年生の冬、学生マジックの発表会の裏方をした私は、 【⑤そこでとても素敵な演技をした方】と知り合った。 後々、私の演技にも多大な影響を与えた人である。 その人が出す花はとても綺麗だと思った。 たぶん、ここでマジックを挙げるのは、この人の演技だけ。 ここからしばらくブランクがある。 猿之助の歌舞伎を見続けて数年、大学も卒業して2001年、 【⑥スーパー歌舞伎「三国志Ⅱ 諸葛孔明篇」】を見た。 これはいろんな意味で衝撃作だった。 京劇を取り入れたアクロバティックな演出、 アホか!?ってくらいの本水を使った立ち回り、 火炎放射気を振り回したり、火花を散らしてみたり、 ラストの、劇場の通風孔から劇場中に降りしきる桃の花びら(もちろん紙ですが)。 話自体も、三国志が全く分からん私でもきちんと飲み込める内容。 あれをライブで見た、というのは、私の人生の中でもかなり貴重。 もう1回、あの降りしきる桃の花びらを見たい。 誰ぞ見せてくれないものかと。 時期は定かではないが、2005年ごろ、再び落語に少し戻る。 高校生の時に集めたまま、何年もそのままにしていたビデオを、 何のきっかけか、見てしまう。 【⑦立川談志「芝浜」「文七元結」】、両方、人情話である。 私は人情話が好きではない。別に人情を落語家が語らなくても、と思っている。 が、不覚にも芝浜を見て泣いてしまった。 文七の、心情描写のリアルさに、驚いてしまった。 なぜ、もっと早くこのビデオを見なかったのか、と激しく後悔。 もうこのころ、談志はほとんど高座に出ていなかった。 でもたぶん、早く見ても、良さに気付かなかったとは思う。 物事のタイミングって、そんなもんだろう。 これ以降、談志にどっぷり浸かる。 私には気持ち良くなる毒のような存在。 数少ない落語会、熾烈なチケット争奪戦などもして、3回見に行った。 去年、談志はあっけなく死んでしまった。覚悟はしていたものの。 あぁ、本当に昭和が終わった、と思った。 2008年、今につながる出来事として、 【⑧コクーン歌舞伎「夏祭浪花鑑」】を見た。 コクーン歌舞伎はずっと見に行きたくてもチケットが取れなかった。 きちんと歌舞伎なんだけど、妙にエグくて、明暗の差が激しくて、 見ていてものすごく疲れたが、手拍子にスタンディングオーベーションで終わるという、 これ歌舞伎か!?という劇場の雰囲気があまりにも良すぎた。 感情を振り回しては揺さぶりまくる、串田和美マジック。 そしてスーパーなオヤジ、中村勘九郎(当時。今は勘三郎)。 これ以降、コクーン歌舞伎を毎年見るようになる。 そして2010年に大阪城公演で小屋掛けをしていた平成中村座で 【⑨「法界坊」】を見てから、いよいよ中村屋の追っかけが始まる。 法界坊は本筋も素晴らしく面白く、かつやはりエグく作られているのだけど、 最後の「双面(ふたつおもて)」という歌舞伎舞踊が、本当にすごい。 娘姿で踊り始めて、次第に狂乱になり、カツラや化粧や衣装を替えながら 最後には鬼になっての華やかな大立ち回りになる。 そこに、舞台後ろを開けての演出で、 紅葉の大阪城公園の向こうに大阪城の天守閣が見えて、 さらに特効で桜の花びらを噴射するという、 アドレナリンが出まくって止まらないエンドを迎える。 これはあまりにもインパクトが強すぎて、2週連続で大阪へ見に行ったくらい。 今年に入ってから2つある。そして両方とも、中村屋によるもの。 5月の浅草・平成中村座で見た【⑩中村勘九郎「舌出し三番叟」】。 三番叟自体は、舞踊としては大変地味で、全然興味が無かったのだけど、 勘九郎の三番叟は妙に印象に残って消えない。 すごく難しい踊りだということは、経験上もあって、わかる。 相当稽古しないと、あそこまできちんと踊ることはできないと思う。 舞台上に2本の燭台を立て、地明かりは最低限にして、 昔の芝居小屋の雰囲気を再現したような演出の中、 その誤魔化しのきかない舞踊を踊るという難しさ。 これを見て、日本舞踊に対する自分の価値観が変わった気がした。 どうしても派手なものを好みがちだったのが、 きちんと見せてくれるものは硬いものでも面白いと思えた。 そしてつい先日見た【⑪信州まつもと大歌舞伎「天日坊」】。 コクーンでも見たのだけど、松本では演出が追加されていたりして、 よりパワーアップしていた。 相変わらず、串田マジックにかかって、見終わった後相当ぐったりする。 軽く頭痛を覚えるほど疲れる。 松本は町をあげて盛り上げていて、その取り組みも素晴らしく感動した。 駅からずっと幟が立っていて、劇場までウキウキで歩いたし、 劇場のロビーには縁日が出ていて、むっちゃくちゃ盛り上がっているし、 地方の市立のホールとは思えないほど立派で素敵なホール、 (世田谷パブとか天王洲銀河とかと同じかそれ以上の造作とクオリティ) 若い客層が多くて、やたらと盛り上がる会場。 こういう町起こしは手伝いたいなって思う。 ・・・・・ 全部で11個でしたね。 細かなものはもっとたくさんあるんでしょうが。 この11個は墓場まで大事に持って行きます。 墓場に行く頃にはあといくつ増えているのか分かりませんけども。 基本的には古典が好きです(十分すぎるほどわかるだろ。。。)。 正確には、古典を、きちんと咀嚼して消化した上で見せてくれるものが好き、です。 本人が消化していないものを見せられても、こっちが消化不良になるだけ。 最近中村屋ばっかり見ているのは、古典か、古典を消化したものを、 きちんと美味しくして、誠実にこちらに提供してくれるから。 それと、ずっと年配の方を追いかけてきたので、 失うことの方が多くて、悲しい思いをしてきた。 中村屋の息子2人は自分と同年代、ずっと見ていられるから。だから。 そして今週、かつて心底惚れこんで追いかけた猿翁(当時猿之助)を見に行きます。 おそらく舞台で見るのは最後でしょう。 ずいぶん痩せてしまって、映像ですら、痛々しくて見ていて切なくなるのに、 舞台を見て、自分はどんな気持ちになってしまうのか。 久しぶりにお目にかかれるから楽しみなのだけど、 見納めになるような気もして。 ・・・・・ やっぱり長くなりました。 結論としては、私は耳年増、目年増、感性年増であるということです。 #
by pocket-xiao
| 2012-07-23 00:23
| いとし、しほらし、かはいらし
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