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2007年 04月 17日

走水

仕事場の近くに、走水(はしりみず)という地名がある。
浦賀近く、海に面した場所。別に観光地というわけでもない。
でも、結構有名な場所。
中学校か高校の古典で出てきているはず。

「古事記」
中巻のヤマトタケルの伝記に出てくる、悲劇の場所。

時の天皇より東国征伐を命じられたヤマトタケル(倭建命)一行は
相模国(神奈川)から常陸国(茨城)へ海を渡ろうとした。
走水から船を進めたが、怒った海神が荒波を起こし、
前に進むことが出来なくなってしまった。
そこで、船に乗っていたヤマトタケルの后、オトタチバナヒメ(弟橘比売命)がこう言う。

 妾、御子にかはりて海に入らむ
 御子は遣はさえし政遂げて、覆奏したまはね
  (わたくしがあなたの代わりに海に入りましょう
   あなたは命じられた東国征伐の任務を果たして、天皇にご報告にお帰りなさい)

オトタチバナヒメが入水すると、海は凪いで、無事に航海が出来た。
最後にヒメが読んだ歌。
 
 さねさし さがむの小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも
 (相模の野原で炎に囲まれながらも、私のことを気遣うあなた
  ・・・この話の前に、有名な迎え火の話があるのです。詳細は割愛) 

それから7日が経って、ヒメの櫛が海岸に流れ着いた。
ヤマトタケルは墓を作って、櫛を納めた。

・・・という話です。高2の古典で読んだような気がします。
超人的な能力を持ったヤマトタケルという人物の、
闘いの日記のような話の中にあって、ものすごく人間味あふれる部分です。
大好きな部分です。

オトタチバナヒメの言葉も歌も、櫛が流れ着いたエピソードもいいのですが
話の大筋とはあまり関係の無い部分で、好きな記述があります。

 海に入らむとする時に、菅畳八重、皮畳八重、絁畳八重を波の上に敷きて
 其の上に下り坐しき

ヒメが入水するときの支度の話なのですが、
菅で編んだ敷物、皮の敷物、絹の敷物を何重にも敷いて・・・という意味です。
この話で「入水する」というのは、海神のところにお嫁に行くことなので、
死の儀式ではなく、婚礼の儀式が行われている、という妙。
それから、こういう「言い立て」(同じようなリズムで文言を並べる)が個人的に
好きなので、この部分は印象深い。

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あぁ、そうか。ここがその走水なのか、と思ったら感慨深くなりました。
今は縦横無尽に船が行き交う走水の海ですが、
昔には、たくさんの人が命を落とした海だったろうし、
ずっとずっと昔には、愛する人のために海神に命を捧げたた女性がいたわけで。

波も穏やかな、きれいな海です。走水は。

by pocket-xiao | 2007-04-17 02:39 | いとし、しほらし、かはいらし


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